オビラメ勉強会 in 札幌「南限のイトウ」復活のために今必要なこと

2003, 2022/01/03

札幌ワークショップ 第9回オビラメ勉強会は、当会として初めて尻別川流域を離れ、2003年7月30日夕、札幌市北区の北海道環境サポートセンターで開催しました。イトウ保護への関心の高まりを反映してか、主催者側の予想を上回る約60人が来場し、会場は机と椅子が足りないほど。

 第1部では、学術振興会科学技術特別研究員の江戸謙顕さんが今春のオビラメ人工授精とその後の経過について報告し、また北海道立水産孵化場主任研究員の川村洋司さんが野生イトウの個体群が環境破壊によって絶滅の危機に瀕していることを解説しました。

 第2部は、川村さん、江戸さんに草島清作「オビラメの会」会長を加えた3人をパネリストに、活発なディスカッションが繰り広げられました。(報告・平田剛士)


パネルディスカッションから

フロア イトウをこれから守っていくには、そうとうのパワーが必要だと思うのです。社会のバックアップが欠かせないと思いますが、どんなふうにアピールしていきますか?

川村さん 私たちはイトウのことだけ問題にしているわけではないんです。「アンブレラ種」と呼ばれますが、イトウは生態系の頂点に位置する生き物です。つまり、イトウのすめる川とは、他の全ての魚や生き物たちも豊富にすめる川だということなんです。イトウは川の上流から下流まで、ぜんぶよくないとダメな魚ですが、そんなイトウがすめる川は、例えばサクラマスにとっても最高の川なわけです。その意味で、流域の自然環境全体の象徴だと言えるし、このことはアピールすべきだと思います。

フロア イトウ個体群を回復させると言いますが、それはどんなイメージですか?

江戸さん 景観も含めて、その川の多様性を回復することだと思いますね。いま、川の環境はすごく単純化されていて、これからどんな川にするのか、目的も単純化されてしまってます。安全ならそれでいいんだ、とか。だから、川の環境をこんなふうにしたい、という目的も、多様化させる必要があると思います。

フロア 大阪から転勤で札幌に来たんですが、あちらでも時々、イトウのことは聞おていました。関心のある人は多いと思うんです。でも行政の反応は鈍い。オビラメの会さんの「30年計画」なんて、億万長者でもない限り、なし得ない仕事ですよね。どうやって行政を巻き込んでいくか、あるいは政治家に働きかけるとか、考えていかないと……

川村さん 保護する側としては昨年、「イトウ保護連絡協議会」という全道的な組織を立ち上げました。オビラメの会はこの春、種苗が手に入りましたし、さあこれをどうするんだ、というふうに民間側から声を上げる中で、行政にも具体的な動きを要望していくという形ではないでしょうか。

竹内聖さん(会員) (勉強会を)札幌で開くとこれだけの人が集まりますが、地元の人たちの関心というのは、必ずしも高くないんですよね。例えば尻別川の喜茂別とルサンの間の改修で河畔林をほとんど切っちゃったんですが、役所は「町の人は歓迎している」と言って、ああいう工事が進んだりしています。

フロア 道外から見ると、北海道にイトウが生息していることは、それだけで大きな意味があるんです。都会の人たちも大いに巻き込んでいくべきでしょう。ただ、無闇に関心が集まると悪い面もありますから、魚にとってプラスかどうか、常に気を付けていかないと。

フロア イトウは北海道のレッドデータブック(RDB)に載っていますよね。札幌市なんかは、公共工事の時などにRDB記載種に対してかなり気を遣っていると思いますけれど。

川村さん そうしたことが、これまでなかったんです。典型例が別寒辺牛川(厚岸町)に防衛施設庁がおこなった砂防ダム建設。だけど、行政側も神経質になってきています。それをしちゃダメだと、こちらからどんどん情報を発信していく必要がある。生息情報なんかを出していく難しさはありますが、リスク覚悟でやっていかないと結局手遅れになる。

フロア 道庁の自然保護課の新田です。じつは保護のための法律はあり、手段もあるんです。イトウを禁漁にすることもできます。ただ、川に関しては事業が非常に多くて、国まで含めたら10くらいあります。河川・砂防・治山・農業、それぞれ立場があるんですが、イトウ保護についての情報、何をしちゃダメなのか、という情報はみんな欲しがっていますので、庁内で勉強会をやっていきたいと思います。行政は住民の意見を聞いて事業をしますが、「早く改修してくれ」と言う意見も出るわけです。みんな、まるで違うことを言っている。どこで折り合いを付けるのか、研究者の情報を集めて施策に反映させて、少しでもよくしていきたい。

川村さん イトウみたいなでっかい魚が、まだ北海道の川にはいるんだ、川って本来はそういうものなんだ、というのをぜひ知って欲しい。「イトウが泳ぐ川」を守っていきたいですね。