「地域の意見を行政に反映させたい」安藤正幸・蘭越河川事業所長

2001、2017/09/28

川の公共事業はホントに変わるの――? 国道交通省の安藤正幸・蘭越河川事業所長を講師に招いての第5回オビラメ勉強会が2001年11月25日夕、ニセコ町民センターで開かれ、約20人の参加者が熱く語り合いました。安藤さんの講演録をお届けします。(写真と文/平田剛士、現場写真提供/蘭越河川事業所)


あんどうまさゆきしご紹介いただいた安藤正幸です。昭和22年3月29日生まれの54歳、道東の開拓農家に生まれ、近くの川が遊び場でした。北海道開発局に勤めてからは標津川(標津町)の改修工事、蛇行河川の直線化事業などを手がげてきましたが、きょうは尻別川の河川行政にご理解いただけるよう、お話ししようと思っています。

ランラン公演前の砂州
「アユのために」砂州を撤去

われわれは法律に基づいて仕事をしていますけれども、平成9(1997)年に河川法が改正され、従来の治水・利水に加えて、河川環境の整備と保全、それから地域の意見を反映した整備、ということが盛り込まれました。

具体的な施工事例で説明しましょう。蘭越町の河川敷に「ランラン公園」があります。平成11年8月、12年4月と2年にわたって昭和50年洪水に匹敵する規模の出水がありました。この洪水によって、ここの河道に土砂が堆積し、右の写真のように大きな中州が生じました。洪水時に公園などに被害が出やすく、利水上の問題として、農業用水の取水施設が埋まって取水障害が出ました。また、写真のように川幅が狭く、流れが速くなったことにより、アユなどの生息域やカヌーなどの河川利用に影響が出るようになりました。

それで昨(2000)年、洪水後において中州を撤去することで検討しましたが、アユなどの生息地ということで中州を無くすと、かえって環境が悪化するのではないかという声もあったんです。それで役場や土地改良区と尻別川漁業協同組合が何度も意見交換をし、投網や生態調査を行い、そして工事後の調査を十分行うことで、最終的には「アユがゆったり暮らせるような広い河道にしよう」という方向で、工事を行ないました。

カゴマット
カゴマットによる護岸
木工沈床
木工沈床
玉石
玉石護岸

次は、従来のコンクリート護岸に覆土、玉石、木工沈床などを配置したり、コンクリート護岸に変えて河川工事で発生した玉石を有効利活用したカゴマットで護岸した例です。水中に多孔質な材料を使うことによって、魚などが隠れる場所が多くなり、かつ生息域全体の面積が増えるだろうと昨(2000)年度から実施しています。これまで砕石を使っていたんですが、アユなどの餌となる苔の生育に難がありました。新しいやり方なら、大小のそれぞれの魚類が自由に出入りができる環境になると思います。

さらに新たな施策として、河川敷地に樹林帯を整備して、破堤したときに洪水流を減水し遊水池として機能させるアイディアもあります。すでに、蘭越町名駒地区で町内会や漁協や河川施工者協議会などでワークショップを開いて、堤内に植林をしています。木を植えることによって、山・川・海の連携を少しでも取り戻す試みですね。尻別川はサクラマス増殖事業の重要河川ですが、日本海沿岸のサクラマス資源保全に役立つとして、こうした取り組みは各関係機関から注目されています。

いまわれわれは新河川法に基づいて、平成15(2003)年ごろまでに新しい尻別川の計画を立てようとしています。重要なのは、尻別川をどんな河川にすることを目指すのか、という点。治水・利水・環境の一体となった連携が大事だと思います。野生動物、特にイトウに関しても、自治体や「しりべつリバーネット」のようなNPO、「オビラメの会」の皆さんたちとも連携しながら、地元の意見や要望を聞いていこうと思っています。

「石淵」改修計画について

蘭越町の「石淵」を皆さんご存じと思います。昭和34(1959)年頃に改修が始まって、直線化をやってきました。いま、さらに新水路の計画があって、蛇行部をショートカットするんじゃないかと、皆さんが心配されているように聞いています。確かに従来なら洪水の流れを早くするために、そうやっていたかもしれません。

でも新たな事業展開として、現河道はふだんのまま水を流して、新水路には洪水時だけ水を流すように、新水路とあわせて遊水池と沈砂池にしようと考えているところです。

現に掘削している水路の残土は、農業用客土として利用しています。現河川をいじらず洪水対策や環境対策を行おうとしています。新水路は湿地状態になり、ビオトープにするとか、周りに植林をするとか、そういう展開も考えられますね。沈砂地の考え方は、こうです。洪水時には流域から大量の土砂が流出され、氾濫域には肥沃な土地が形成されています。土砂がたまれば客土として流域の農地に還元できると思っています。流域の恵みを流域に戻すということですね。

石淵 写真の右下の方は、昔蛇行をショートカットした後の古川(旧川)があります。この地区には、そのような古川がいくつかあります。その古川があることによって、洪水時に内水氾濫がなかったという事例が昨年、一昨年の洪水で結構ありました。地元では古川をもっと堀り込んで遊水池にしてほしいとの要望もあります。

昔は、古川も含めて農地などに払い下げを行ってきましたが、いまは、河川管理として必要なものとして払い下げは行っていません。

その古川を遊水池として残し、さらに魚類や鳥類の生息環境を求めることによって、さらに市民団体等の活動の場にできるのではないかと。そういうふうに考えることも可能だと思います。

古川に水をためることによって、水が腐るという声もあります。いま河川工事などで、やむを得ず柳などの河畔林や倒木を伐採・処理しなければならい場合があります。その伐採木を木炭にし水質浄化の試みも行っているところです。また失った河畔林の再生もカミネッコンなどで地域住民と共に植林を行っています。水質日本一の尻別川を大切にするためにも必要ですね。

イトウを保全・保護するためには、私の勝手なアイデアですけど、この石淵のポイント、たとえば魚の隠れ場所造ってイトウがたくさん住める環境にできる方法があるかと思うんです。釣り人が簡単に入り込めないような環境にしたっていい。イトウの生息環境を増やすやり方が何かあるのではないでしょうか。

たとえば古川の遊水池をどう活用するかというのといっしょに、地域の皆さま方と一緒に議論できると思います。

極端な言い方をしますが、流域の皆さんは、河川を利用するにあたって、加害者・被害者意識で対立するのではなく、この川をどうしたいのか人ごとと思わず自分自身の考え方のみならず、周りの人の考え方もとりいれて考えなければならないと思います。河川行政はみんなで考えながらいろいろな問題を解決できるような方向になってきていると思います。私どもは、少しでも役立てるよう進めたいと思いますのでご協力をお願いします。


2001年11月25日、ニセコ町民センター