小樽土現が尻別川でおこなっている土木事業
2002、2022/01/05
北海道小樽土木現業所真狩出張所・中勤美さん、佐藤修さん
2002年4月20日(土)、ニセコ町民センター
川を愛するナチュラリストたちにとって、とかく目につく河川改修事業。尻別川で野生イトウの生息環境の保全・復元を目指す「オビラメの会」にとっても、開発系官庁との調整は不可欠と考えています。2002年4月20日(土)夕にニセコ町民センターで開催した今回は、尻別川水系の多くの部分を管轄する土木専門部署、北海道小樽土木現業所真狩出張所の所長、中勤美さんと、河川担当主査の佐藤修さんをお迎えし、イトウ保護の実現に向けてディスカッションしました。
(1)土木現業所の仕事は?
みなさん、こんにちは。きょうはまず私が土木現業所の河川事業の概要について、また、より詳しく尻別川の事業について佐藤主査からご説明させていただきたいと思います。河川事業といえば、昔は治水だけが目的だったんですが、社会情勢が変わった現在では、環境のことにも配慮するような方針に変わってきていますので、そのあたりをご理解もらえればと思います。
まず基本的な説明から始めさせてください。土木現業所の組織は、この図のようになっています。倶知安・ニセコ・京極・真狩・喜茂別・留寿都を管轄する私たち真狩出張所の場合、6つの係がありまして、このうち実際に工事事業を行なっているのは道路係と河川係です。下水道事業は、いま最後の留寿都で進めていますが、道内の下水道普及率というのは84%で、けっこう高いんです。尻別川も一昨年ですか、水質日本一になりましたが、下水道が普及したお陰でもあるといえると思います。
尻別川は総延長126kmの一級河川です。一級は本来は国の管轄ですが、国土交通大臣の指定で加工から24.7kmを国、その上流の87kmを道、14.8kmを町村が管理しています。
余談ですが、一級河川の支流は一級なのかどうか、という区別は、その支流が本流の治水計画に影響する部分は国が管轄することになっています。
土木現業所は手広く事業をやっていて、ダムも造りますが、われわれが担当するダムは大半が治水目的のものですね。農業ダムは農政、発電用は企業局が造ることになっています。
尻別川の治水工事
尻別川の治水は、降水量を抜きに語れません。倶知安の平均年降水量は約1500mmと、道内でもトップクラスですね。多くは雪ですが、今年は少なくって、昨年の累積積雪量は11mだったのが、今年は9mでした。それでも一気に溶けると災害につながりますが、いまのところ助かっています。昨年は秋に大雨があり、上流の方で二カ所、出水がありました。
尻別川の治水は1910(明治43)年に最初の改修計画ができましたが、これは対症療法的なもので、本計画が出来たのは1956(昭和31)年。その後、1971年、1981年の集中豪雨で被害が出て、見直した計画が現在の基本計画です。
自然環境への配慮に関しては、1992(平成4)年、道の「川づくり検討委員会」からの答申を受けて、1994年12月に「川づくり基本計画」を策定しました。治水一辺倒ではなく、環境も整えていこうという方向を打ち出して、少しずつ出来るところから進めているところです。
大もとの河川法も1997年に改正されました。河川環境の整備と保全の項目が追加され、地域のみなさんの意見を採り入れる仕組みができたんです。
また、北海道では、二級水系を対象に「河川環境管理基本計画」の策定を進めていまして、尻別川の計画はまだなんですが、いま北海道開発局さんが取り組んでいるので、それができると、ハッキリしてくると思います。
このように、いままでの治水ばかりの対策から、環境的なことも考えていこうというふうに方向は変わってきています。とは言っても、既存の権利、水利権だとかそういうものを破棄できるところまでは、行ってないのですが、でも少なくともいままでとは違う、とは言えると思うのです。
(2)「尻別川喜茂別地区多自然型川づくり」について
みなさん、こんにちは。河川担当の主査をしている佐藤です。こちらには昨年、赴任してきたのですが、その前は利尻、登別、函館に勤務していました。ですから尻別川のことはみなさんの方がお詳しいと思うのですが(笑)、付け焼き刃でお話しすることを最初にお詫びしておきます(笑)。所長から説明がありましたように、これまでみたいに画一的なコンクリート護岸をするばかりで、環境のことを考えないやり方は、だんだん許されなくなってきて、さきほどの「川づくり基本計画」が策定されました。この計画の根底には、「人に川にもっと近づいてもらおう」という考え方があります。
世の中の流れはそちらに向いてきたのですが、何ごとにも本音と建て前はございまして(笑)、いっぺんにはなかなか変えられるもんじゃない。それで、まずは効果的なところから失敗しないようにやらせてもらおう、というスタンスで取り組んでいるところです。
「川づくりの基本計画」は、尻別川では喜茂別地区から始めています。従来の計画では、水害を防ぐことだけが目的で、流路断面を決めてコンクリブロックを入れて、という築堤方式で進めてきました。これで確かに水害は減ったものの、河岸や河床の自然度が下がって、アメマスやヤマベやイトウ、されにそれらを支える水生生物にとっては、あまりよくない状態でした。そこで95年から、喜茂別・京極の町境、留産橋から喜茂別川合流点までの5kmの区間で「多自然型川づくり」の河川改修を始め、99年の見直しを経て、昨年2001年度で終了したところです。
当初計画(1995-1998)について
では、まず95-98年の当初計画と実績をご説明します。計画の基本方針は右の6点でした。
喜茂別川「多自然型川づくり」(95〜2001年)の基本方針
- 生息する魚類に配慮。水通しとなっている河床には極力手を着けず、河道として残すように配慮する。
- 河岸に残った自然(ヤナギなどの樹木)も極力残す。
- 不足した河積は、高水敷を切り込んで断面化することで補う。
- 法面のブロック護岸はできるだけ水衝部に限る。
- 水理根拠として不等流計算を用い、最小限の掘削を目指す。
- 必要堤間は等流計算を標準とする。
必要な河道断面の計算は、単純に流量を速度で割れば出るんですが、これだと画一的な断面になってしまうので、「不等流計算」というのを採用することにしたのです。この方法は、コンピューターに繰り返し計算させるのでコストはかかりますが、お金をかけてでも環境に配慮しようと言うわけです。
具体的には、いまの河道は極力残して上(中水敷、高水敷)を切ろう、ということです。また上に樹木があるような場合は、それも極力残そう。そんなふうな方向で設計をやりました。
護岸にも配慮して、部分ごとに次のように工法を変えてみました。
水衝部 | カゴマット護岸 |
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水衝部以外で法勾配が1:2(標準勾配) | 柳枝工・栗石粗朶工 |
水衝部以外で法勾配が1:5(緩勾配) | 表土戻し |
このほか、川底から掘りだした石をそのまま利用して、河道や水際に変化をつける、といった工夫も試してみました。
見直し計画(1999-2001)について
さて、こんなふうに「いまの河道を残して上を切る」という方針で工事を終えたわけですが、植生・底生生物・魚類の早期回復などいちおうの成果は出たものの、新たに掘削した中水敷の水路が増水で浸食されて河道と一体化してしまい、どこが河道か分からない状態になってしまいました。瀬-淵構造がなくなり、全体的に平瀬になってしまったんです。それで平成11年から見直し計画に基づいた改修工事をやりました。尻別川の6つの発電ダムに2000年までに魚道が整備されたので、今度の基本方針では、「アメマスが生息できる川づくり」を目指すことにしました。
具体的には以下のような方針で工事しました。
低水路の断面形状 | 現況ミオ筋なりの蛇行した形にする。 |
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現況程度の低水路幅とし、一定幅にこだわらない。 | |
年最大の融雪期流量がほぼ流下できる高さとする。 | |
最大の低水路幅は渇水期でも30センチ伸す威信が確保できる幅とする。 | |
護岸・水制など | 現地で発生した30センチ程度以上の巨石はそのまま放置する。 |
湾曲部の水裏は親水性、植生の復元に考慮し緩斜面とする。 | |
連節ブロックの敷設替えをおこなった箇所は現地表土で覆土する。 | |
根固ブロックの在材は道路が近接している水衝部に配置する。 | |
河畔林 | 河積に余裕のあるところは現況樹木をマウンド形状で存置する。 |
樹木の生えていない箇所においても、将来的な存置可能範囲を設定する。 | |
樹木群として存置できない区間は水辺林を疎林として植樹する。 |
いまはまだ工事が終わったばかりですが、このイメージイラストは「10年後にこうなりますよ」という図です。(北海道『精霊たちと出逢う川/尻別川他自然型川づくり・概要』より転写)
単年度事業ですので、少しずつやれるところから取り組まざるを得ないのですが、道としても「川づくりの基本計画」をブチあげているわけで、これからも責任を持って当たりたいと考えています。
(3)尻別川改修工事「水辺の楽校」事業について
(佐藤修主査)「水の郷きもべつ水辺の楽校」事業は、「人々の参加する川づくり」というテーマで、喜茂別町さん主体でおこなわれている事業です。平成12年にボランティアグループと一緒に11人からなる運営委員会ができまして、13年には町教委に事務局が出来ました。上ものは町さん、下地はわれわれ土現がやるということで、基盤のための整地ですとか、カヌー乗降のための水制だとか、バリアフリーの築堤道路、中水敷の散策道などの整備工事をやっています。
(フロア)そもそも「水辺の楽校」の真意は何ですか?
(佐藤主査)川をもっと利用してもらおう、ということです。町教委がプランを持っていて、土現はその支援をするという立場です。
(フロア)自然に親しむと言いながら、なぜ(河川敷の)木を全部切っちゃったんですか? カヌーで下ってて、木が切られたのを見たときはすごいショックだった。
(佐藤主査)木を残そうとすると、畑の用地を潰さなきゃならなかったんですよね。
(フロア)これからもずっとそんな工事が続くと言うことなら、イトウを守ることは不可能ですよ。11人の委員って、どんな人たちなんですか?
(佐藤主査)委員構成は喜茂別町のホームぺージを参照していただければ判りやすいのですが、学校の先生、PTA、釣りの会等いわゆる普通の町の方々です。
(フロア)2年前の夏、流域住民にアンケートがあった。「木を残して欲しい」と回答したんですけど、無視された。僕も勉強したんだけど、イトウには支流もすごく大事だといわれてますよね。何か配慮しましたか。
(佐藤主査)イトウに関しては、データもありませんし、事業を進める早さとか、お金の面とか、いまのところイトウのことは(配慮すべき項目として)含められないんです、残念ながら。この中に農家の方はいますか?
(フロア)尻別川を下ると農業資材のゴミもひどいですよね。農家には教育が必要だと思うよ。
(佐藤主査)確かにそうなんですけど……。尻別川では川の縁まで農地が張り付いています。(河畔林などの自然を残しながら氾濫を防ぐために)築堤ができればそれに越したことはないのですが、そのためには土地を提供してもらわないとダメです。用地買収には私も何度も行っていて、坪1000円くらいで買えるんですけど、測量の杭を打つだけでも「もっと際のほうに」とか怒られる。せっかく開いてきた土地を手放したくないという農家の方の気持ちは強いです。イトウや自然を守るのも行政なら、地域を守るのも行政なんです。いま、公共事業にイトウを(保護すべき対象として)入れられるかと言えば、お金もかかるし、流域住民の生命財産を守ることがやっぱり主です。できれば自然を守りたいとは思いますが、予算要求のとき、国に「それは流域の意見ですか」と必ず聞かれます。逆にいうと、地域で住民運動としてイトウ保護をおっしゃっていただければ、ウチのほうもその意見を汲んでいきやすくなる。でも現状では、民意は何か、というと、選挙で選ばれた首長さんの意見、ということになるのです。「民意」とするためには、町議会とか町のほうに言うべきなのかもしれません。もちろん、責任転嫁しているわけではなく、私どもとしましては、オビラメの会の運動が流域住民の方々に浸透し、町議会や町を動かす形で要望が有った場合、「民意」として真摯に応えていく責任を負うこととなると考えています。
(吉岡俊彦事務局長)子供たちの自然体験のためといいますがね、この「楽校」のやり方では、ニセモノの勉強にしかならないよね。それよりも「この砂防ダムは何のためにあるのか」という疑問から始まる教育をすべきじゃないのかな、と思うんです。なんで「楽校」みたいなことをやるのかな。
(佐藤主査)これまでみたいな画一的な改修だと、何もなくなるような場所です。そこを利用するわけです。
(吉岡事務局長)工事しなくていいところをしているとしか思えない。いま「オビラメの会」はそれをチェックしているところですがね。役に立っている部分はほとんどないのではないですか? イトウは絶滅に一番近い魚ですよ。それを守れないと言うのは、一番大切な部分が抜けてるってことでしょう。放流すりゃあ戻ってくるサケなんかとは、イトウは違うんですよ。
(山本契理事)聞いていると、「楽校」は倶知安の河川公園と同じだな、と思えるんですがね。利用者なんか誰も来ていないよね。
(佐藤主査)そのご意見は、正しいかも知れませんが、正しい答えはひとつとは限らないと思います。「民意」で上がってきたものを進めているわけで、それが正しいかどうかの判断は私たちにはできないんです。
(草島清作代表)われわれの調査で、イトウ復元のために倶登山川(倶知安町)がかなり重要な川だと分かってきてます。でも堰堤に魚道がついていないんですよね。
(佐藤主査)魚道でしたら、町村長を通じて要望が上がるような運動をされたらどうかと思います。ただ、堰堤自体をやめることはできません。
(吉岡事務局長)真狩川の改修工事は?
(佐藤主査)市街地から上の部分は農業(北海道農政部)さんの管轄で、分かりかねます。
(フロア)イトウの稚魚のことを考えると、5キロに1か所は遊水帯が欲しいんですがね。
(佐藤主査)いまは築堤方式でやってます。
(中勤美所長)川の状況について、ウチもパトロールをしていますが、気がつかれたことがあったらぜひ連絡をしてください。
(草島代表)きょう、土現さんの仕事の内容を伺って、とくに喜茂別の「川の楽校」については、まだまだ疑問が残った気がしています。今後もこうした話し合いをぜひお願いしたいと思います。きょうは長時間、どうもありがとうございました。