尻別川流域の治山事業

2002/12/7、2022/01/04

北海道後志支庁林務課長・中山誠二さんを迎えて

2002年12月7日、ニセコ町民センター

第7回オビラメ勉強会「尻別川流域の治山事業」が2002年12月7日、ニセコ町民センター2階和室「しらかば」で開かれました。講師にお招きしたのは、北海道後志支庁林務課長の中山誠二さん。OHPやスライド写真、特製の手作り模型を駆使して、治山事業について詳しく話してくださいました。


中山誠二さん
中山さん(左)の説明に聞き入る参加者たち

方向転換する森林政策

日本の森林政策は、これまでとは方向性がずいぶん変わってきているので、今日はそのあたりのことをお話ししたいと思います。

後志支庁の林務課は31人のスタッフで日夜努力しているところです。ひとくちでいうと、治山とは森林を育てるための仕事です。私の課が管轄するのは小樽から島牧までですが、ちょっと数字を見てもらいましょうか(表1)。

表1 北海道の森林面積

全道 後志管内
土地面積 8,345,304ha 430,546ha
国有林 3,197,119ha 164,522ha
道有林 608,815ha 36,142ha
市町村林 306,930ha 17,924ha
民有林 1,466,782ha 115,903ha

森林にはこのような種類があって、国有林は森林管理署、道有林は森づくりセンターが、それぞれ所管しています。市町村有林と私有林が支庁の事業エリアです。後志管内は森林率が77%と全道平均より10ポイントほど高いことが特徴で、一般民有林の割合も26.9%と高いのです。人工林率は27.3%で、カラマツ、アカエゾマツ、トドマツが主ですけれど、これも全道平均(18%)よりかなり高いですね。

表2 代替法による推定価値

水源涵養機能 27兆1200億円
土砂流出防止機能 28兆2600億円
土砂崩壊防止機能 8兆4400億円
保健・休養機能 2兆2500億円
野生鳥獣保護機能 3兆7800億円
大気保全機能 5兆1400億円
合計 74兆9900億円

さて、二酸化炭素の排出抑制の目標を定めた京都議定書(COP7)では、森林に炭酸ガスを吸収する効果を担わせていますが、もし森林なしでこの目標を達成しようとしたらいくらかかるか、という計算のしかたがあります。このことも含めて、林野庁がこんな試算をしています。森林の価値をお金に直したらどうなるかということで、水源涵養から大気保全まで合わせて74兆9900億円だというんです(表2)。

森林保全の重要性が高まっているわけで、施策も大きく変わってきています。平成13年に「森林・林業基本法」ができて、道のほうでも「北海道森づくり条例」が14年にできました。2001年から2002年にかけて、国や道の考え方は大きく様変わりして、これまでの木材生産を主体とした政策から、森林の持つ多面にわたる機能を将来にわたって持続的に発揮させるための政策へと、転換が図られているところです。


森林の機能

森林には8つの機能があると言われていますね(表3)。このうち、たとえば「土砂災害防止」と「洪水の緩和」がどういうメカニズムか説明しましょう。

表3 森林の多面的な機能

  • 生物多様性維持機能
  • 地球環境保全機能
  • 土砂災害防止機能・土壌保全機能
  • 水源涵養機能(洪水の緩和機能など)
  • 快適環境の形成機能
  • レクリエーション機能
  • 文化形成機能物質生産機能

斜めにした板の上にスポンジを載せて上からじょうろで水をかけるとします。スポンジが乾いていたら、水はしみ込んでいきませんよ。そのまま表面を伝って流れ落ちます。裸地に雨が降った状態です。スポンジは濡れた状態で初めて水を吸い込む。森林は濡れたスポンジと同じです。加えて、山の斜面に木の根が張ると、網目効果とか杭効果といわれますが、土砂の流出が抑えられるのです。土壌の浸透の違いを身近なスポンジを例に分かりやすく説明したのは、北大名誉教授で現・森林空間研究所の東三郎先生です。

これまでの木材生産中心の政策から、森林の多面な機能を将来にわたって持続的に発揮させるための政策へと転換し、このための森林整備を進めようとしたのが、こんにちの新しい方向です。森林の機能を総合的に、また高度に発揮させるように整備するために、森林の機能を用途別に水土保全林、森林と人との共生林、資源循環利用林(林業用)と分けていますが、このことから、道有林からは資源循環利用林はなくなります。

治山ダムはまだ必要です

A 床固工 B 谷止工
床固工 谷止工

さて、治山ダムというのは、「渓床の縦浸食および横浸食を防止して、渓床の安定、山脚の固定及び土砂の流失の抑制・調整を図ること」を目的に作られるものです。いろんなタイプがあって、たとえばAは「床固工(とこがためこう)」、Bは「谷止工(たにどめこう)」と呼ばれるものです。

治山ダム、高くてもせいぜい4メートル以内ですが、ダムの高さはこうやって決めます。床固工の場合、渓床を安定させるには、崩れた土砂や流出した土石が不安定に堆積している場合は、土砂などの移動防止のために、それぞれの渓流ごとの安定勾配をもとに、必要なダムの高さを決めます。

「山脚の固定」のほうは、左右の斜面から土砂が崩れてくるのを防がなくてはいけませんので、一般的には床固工のダムより高くなることが多くなります。それぞれの沢において、不安定な山脚の固定に必要な高さを決めるわけですが、自然保護などの面からはなかなか理解が得られにくく、いっそう十分な説明が必要となっています。

ただ、2002年の現在でも、治山ダムを作るべき場所はまだまだあるんです。もちろん山に木を植えて保安林整備も進めるのですが、それでダムを100%ストップすることは無理だと思います。

ただ、過去に災害があった、とか災害の恐れがある、というのでダムを造ったけれど、ずっと災害がない場所もあるので、そういう場所のダムは低くするとか、スリットダムにするとかの方針も今後出てくるのではないでしょうか。

保安林整備の業務

中山誠二さん 森林整備は、おおまかに植栽と保育に分けることができます。保育のほうから説明しますと、まず間伐(本数調整伐)ですね。手入れの行き届かない森林というのは暗いです。そこに間伐によって隙間を空けてやると、光が入って木がよく育つんです。地表の被覆性植物も増えます。それから、地ごしらえ、下刈りといった作業があります。

植栽もいろいろありますが、ヤナギの挿し木をご紹介しましょう。これは簡単で、みなさんがヤナギの束をリュックで背負っていって河原に挿してきてもいいかなと思います。人の手指くらいの太さのヤナギがいいですね。鉄筋で地面に穴を空けてから挿すようにすると、ヤナギの皮が剥けなくて、具合よく元気に育つようです。

魚道についてもお話ししましょう。いつも部下に「鳥の餌場つくってんじゃないんだぞ」と言ってるんです。よくある階段型の魚道は、それだけでなく、砂が溜まりやすいし、維持管理も大変なんです。魚道の機能を維持するには、それぞれの立場で十分な労力を長期にわたって確保することが必要なのですが、これができないと機能を果たせなくなることがあります。そこで黒松内でのモデル事業では、階段をお椀型・波形になるような魚道を造りました。これは維持管理は楽ですね。

とはいえ、こんなふうにノウハウはできたんですが、全部のダムにこれを作れるかと言ったら、予算の限りもあるし、無理なんです。オカネがないから自然を壊しても仕方ない、とは言いませんけれど、(どこにオカネをかけるかは)ケースバイケースでしょう。

いま、林業は本当に苦しいと思う。20年生のカラマツ一本がいくらだと思いますか。100円ですよ。カラマツ林の隣で、畑に大根を作ってて、これも1本100円です。これが現状なんです。今ちゃんと手を打っていかないと、山林はダメになる。そんなふうに考えながら仕事に取り組んでいるところです。