菅原俊宏さん「建設業者だっていい川を造りたい」

2000/12/10、2022/01/05

川の工事って一体いつ終わるの? 釣り師や自然保護団体をいつもやきもきさせる河川工事をテーマに、当会は第2回オビラメ勉強会「自然にやさしい河川工法」を2000年12月10日夕、ニセコ町町民センターで開きました。尻別川下流のまち蘭越の建設会社常務、菅原俊宏さんをゲストにお迎えして河川工事の実際を伺いながら、尻別川をイトウのすみやすい環境に戻すにはどんな作戦をとるのがいいだろうかと、会員・非会員の10人が4時間もかけて熱く議論し合いました。その模様をダイジェストでお伝えします。(工事現場写真提供・菅原俊宏氏、会場写真・城座研一、文責・平田剛士)


菅原俊宏さん菅原俊宏さん 株式会社「菅原組」専務取締役。磯谷郡蘭越町在住。「しりべつリバーネット」会員。


私のなりわいは建設業で、河川工事を受注しているわけですが、釣り人とか自然保護の人から見ると、「悪魔の手先」というふうに映るかもしれません(笑)。でも発注官庁もわれわれ企業も、じつは自然保護の方向に歩み寄って、いいものを造りたいと願っているんです。業者の目でしか分からないこともあるだろうし、逆のこともあると思う。お互いに接点をもちながら、結果的にいい方向に進めばいいわけで、今日はそんな気持ちを込めてお話しします。

河川審議会は2000年12月、従来の「あふれさせない治水」から、新しい「流域対応を含む効果的な治水」へと、大きく舵を切りました。

まず、最近の河川工法についてご紹介しましょう。10年ぐらい前までは尻別川でも治水工事といえばコンクリート三面張り一辺倒でした。ただ排水さえできればいいという、経済最優先の工法です。でも、河川法が改正されて、地域の人の意見を聞けということで、発注側の姿勢も変わってきています。

尻別川は蘭越町の豊国橋のあたりまで、国(北海道開発局)が直轄で治水事業を行っている川です。すでに計画河道法線や縦断図、つまり、これだけの水量をこれだけの時間内に流す、そのために必要な水路幅はこれだけ、ショートカットはこのように、という基本デザインは出来上がっています。ただ、同じ護岸にしても、これまでみたいにコンクリートでただ固めるというのはもうやめているんです。

ひとつはブロックの表面を剥き出しにしないやり方です。ブロックを敷いた上に、土を被せたり芝を張ったりする。主に美観の向上が目的ですが、ヤナギなんかは、ブロックの隙間にも根を張って育ってますね。

伝統工法への回帰とでも言うんでしょうか、ブロックの代わりに「フトン篭」を使うケースも増えています。奥行き1.2メートル、高さ50センチのフトンの形の金網の中に石を詰めたのがフトン篭で、川岸にこれを積んで護岸するんです。護岸用としては確かに弱い部分もありますが、これだと、隙間に小魚や小動物が入り込んでいける。本当は川石を詰めるのがいいんだが、実際には割りぐり石を使うことが多いです。

マメ知識 尻別川の幹川延長126㎞のうち、河口~豊国橋上流までの24.2kmは道開発局(2001年1月から国土交通省)が直轄管理している。

自然工法と呼ばれる工法には、このほか「連柴工」(れんさいこう)といって、細い柳の枝を10センチ程度の束にしてそれを並べて護岸にする方法や、「埋枝工(まいしこう)」という、これは柳の枝を土にさしこむことによって、やがて柳の枝から根が生えて、草のなかったところに植生が回復し、河岸が保護されるといったやりかたがあります。また「石張り護岸」というのもやってます。石張り護岸は、護岸した川底に川石を並べる方法です。尻別川のケースは、アユの産卵に配慮したもので、蘭越漁協からの要望で採用された工法だと聞いています。また「隠し護岸」といって、土手の地中にシートウオール(遮水壁)を埋め込む方法もあります。漏水を防いで土手の強度を保つやり方です。

菅原さんお勧めの自然工法参考書 

リバーフロント整備センター編集『まちと水辺に豊かな自然を』シリーズ(山海堂出版)

川を自然に近い状態に戻すには、何も手を加えなければいい。そうすれば川が勝手に暴れたりして元に戻る、という意見もあると思います。でも治水のことを考えれば、工事をする必要性もあるのです。工事に当たってどういう工法を採用するか、というのは発注サイドで決まるもので、業者はそれほど裁量を発揮できるわけではないのですが、少しずつ意見を言える雰囲気も出てきています。

次に具体的な護岸工事の風景を行程順にご紹介しましょう。

まず仮締め切りといって、矢板を打って水をせき止めてから工事に入ります。昔はですね、川底をただ掘って、その土を積み上げた土堤(どてい)を造って工事をしてたんですが、平成9年でしたか、ヤツメウナギの生息地がダメになったという苦情を受けて、いまは止めています。

ところで矢板は上流から打ち込んでいくんですが、すると内部で水がよどんで、コイやウグイが大量に入ってきます。そのままだと全部殺してしまうことになるので、まあ気休めかもしれませんが、うちの会社では、できるだけ捕まえて生かしたまま流れに放流するように努めています。

流れの中に矢板を設置しているところ)

次にポンプで排水をするわけですが、濁り水が出るのはこのときが一番ひどい。水深50センチを切ると、底を掘ってそこにポンプの吸水口を差し込むようにして排水するんですが(下の写真)、ヘドロ底のような現場ではどうしても土が流れていってしまうんです。

濁り水の対策として、沈殿池を使う場合もあります。特に下流域の浚渫工事の時は必ず沈殿池を用いるよう指示があります。ただ、沈殿池は現場の近くに一定のスペースがないと作れません。沈殿池のために河原の林をかなり伐採する、なんてことになると、どちらがいいのか判断は難しいところです。それに、沈殿池も完璧とはいきません。特にシルトが含まれる水の場合、沈降剤を入れても完全には浄化できませんね。

工事に入ると、ときおり川底から大きな「埋木」が出ることがあります。過去の倒木ですね。ふつうは廃棄物扱いで取り除くか、よいものは販売したりするんですが、魚の隠れ家になってたかもしれない。こういうのは廃材にせずに戻すようにしてくれ、というような要望を出してもらうのもいいかもしれません。

護岸のブロックを入れるのは重機械を使います。重機を入れるとやはり濁り水が出ます。ブロックの上に覆土したり川石を入れたり、土嚢を積んだりという作業をして、完了です。(下の写真)


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吉岡)では質問やら意見やらをどうぞ。

平田)自然に配慮したそういう工法を役所に要望するとしたら、工事が始まってからでは遅いということですか?

菅原)前述した石張り護岸の場合は、漁協から役所にストレートに「石張りにしてくれ」という要望があったんではないようです。まず役所の方から漁協に「こういう工法があるが、どうだろうか」と打診して、それを漁協側が了承したんですね。漁協みたいに一定の力のある団体は、そういうふうに協議ができるわけです。「オビラメの会」なら、逆に工事予定とかをあらかじめ調べて、工事発注前に要望を出していく、という方法から始めてはどうでしょう。国の管轄部分なら、開発建設部のホームページとかに、一定規模の工事計画は公表されています。アンテナを張っておくべきでしょうね。要望のしかたについて言えば、「とにかく反対」という声は、役所にとっても反応しにくいと思います。そうでなくて、これまでブロックでやってたのをこういう自然工法でやってくれとか、そういう要望は通りやすいと思う。発注側も予算があって、それを消化したい気持ちは強いし、事業もやりたいと思ってるんで、そこをうまく衝くということですね(笑い)

阿部)昔の人にいわせると、いまの尻別川は川じゃない、ただの運河だ、ということになる。でもちゃんと見てる人がいないから、苦情も出ない、という現実はあるよね。

菅原)単に対決姿勢じゃダメでしょうね。でも団体をきちんとして、データもちゃんと出せば、お互いに認め合える部分も出てくると思います。その点、川村さんのこのイトウのデータ(前号参照)はすごいし、大きな材料だと思いますよ。

)伝統工法についてだけど、100年のスパンで治水の歴史というものをみると、昔の蛇篭方式がなぜダメで、コンクリートブロックに変わったのか、そこのところをちゃんと押さえておかないといけないと思うね。いま伝統工法へ回帰してきたとおっしゃったけど、伝統工法に戻す代わりに、これまで50年確率だった治水水準を30年確率まで下げていいんだと、住民の意識がちゃんと自覚してるのかっていうと、そうでもないんじゃないかな。行政も案を出し、住民も案を出して、その中から選択できるシステムちゅうものも考えていかないと。

マメ知識 尻別川(蘭越町)の主な洪水記録

昭和36年7月 205mm/2日
浸水1,851戸、低気圧による
昭和37年8月 240mm/2日
浸水1,025戸、台風9号による
昭和50年8月 185mm/2日
浸水442戸、台風6号による
昭和56年8月 186mm/2日
浸水321戸、台風15号による

阿部)オレが小学校のころまでは倶知安でも洪水あったけど、その後、ないもんな。そういう意味では、工事の効果はあったということだ。

城座)ちょっと考えていることがあるんですけど。京極町のやや上流に、こういう蛇行が昔、あったのを、ショートカットしてしまってるんです。それまではイトウの大物が潜むポイントだといわれていたそうなんですが、そういう蛇行を復元することはできないんでしょうか? たとえばショートカット部分はそのまま残して、洪水の時だけ通水するようにすれば、ふだん蛇行部分に水を流しても治水は大丈夫な気がするんですよ。蛇行部分の土地も、単に資材置き場になってるだけみたいだし。

)蛇行を消した後の用地は、昔なら農地転用といえただろうけど、今は減反してるわけだし。

菅原)私も、技術的にはできるところはあると思います。水量のデータなんかを添えて、「オビラメの会」の側から、こうしたらどうかと提案していけばいいんじゃないだろうか。

吉岡)じゃあ具体的に進めてみたらどうかな、この要望を出すという方向で。どうですか。

)インターネットで今日の勉強会を知って、初めて参加させてもらいました。僕も建設会社に勤めているんですが、その経験から言えば、イトウの住みよい環境を人工的に造っていこうという場合、それは具体的にどんな風景で、どんな構造で、というふうに何か視覚的なものを添えて提示していくと、事業者の側も乗りやすいと思いますね。それから、サンクチュアリでもビオトープでもいいと思うんですが、これからそういうものを造ったとき、たとえばそこへ稚魚を放流した後、本当に生息できているかどうか、生態調査をして証明していくこともすごく大事です。役所のコンセンサスを得るためには、何より十分な資料の準備が必要だと思いますね。

吉岡)きょうはみなさん、活発な議論をどうもありがとうございました。どうぞよいお年をお迎え下さい。


文中敬称略。オビラメ会員は実名、非会員のお名前はイニシャルで表現しています。写真・城座研一、文責・平田剛士


前向きなアクションを! 菅原俊宏

実際皆さんと会ってみて工事するサイドと保護するサイドとではかなりの温度差が有るのを感じました。それはやはり御互いの認識不足、勉強不足だと思います。もっと役所、企業の仕組みを勉強してほしいと思います。対決ではなく利用してしまう。蛇行復元の件や、河床低下による小河川との落差解消、河岸部や山林の回復のための植樹などの要望を出して行けば検討してくれるはず。基本的に役所は住民の要望によって動き出すものなのです。(河川工事も住民の生活を災害から守るためからスタートしてるはずだから)。前向きなアクションを起こすことには賛成です。