イトウと釣りとモノ作り オビラメの会 藤原 弘昭

2012、2022/01/12

イトウと釣りとモノ作り

イトウとの出逢い

 1978年10月22日、道北の某河川で43cmのイトウを釣りあげて私は歓喜の雄叫びを上げた。イトウ釣り初釣行から2年後のことだった。この時の景色、川の流れ、空気、魚体の美しさなどが強烈な印象となり、現在までの三十数年間、私の行動パターンの根源となっている。

 当時は、釣り雑誌にたびたび登場していた尻別川のメーターオーバーイトウに憧れ、「いつかは尻別川の大イトウを釣る!」と目標にしていたが、今は「オビラメの会」でイトウ保護活動をすることに乗り替わっている。私のイトウ釣りフィールドは、今も昔もあくまで道北河川である。尻別川と状況が違い、ここ数年の釣果と産卵河川の状況から推測すると、道北河川ではイトウ個体群は安定していると言える。


ルアー作り

試作ルアーの一部。納得がいく作品はほとんど無い
ツール
セルロースセメントのドブ浸け乾燥工程
ルアー
左上:スピナベFujiSP(メーターオーバー実績あり)
右上:試作スピナーベイト
左下:Fujiヤマメ8cm(釣上数の実績最多)
右下:FujiJM6cm(ボトム攻め用)
ブローチ
イトウのブローチ。最近は作っていない
strap
上:イトウのストラップ
下:試作ミノー

 子育てが一段落し、本格的にイトウ釣りを再開した2005年のシーズンオフからルアー制作を始めた。

 市販ルアーは高額で、釣行時のルアーロストが金銭的・精神的に大きなダメージとなってきたからである。

 投資額は、エアーブラシ、コンプレッサー、換気扇、ルーターなどの道具類と、バルサ、針金、塗料などの材料費、締めて5万円程度。市販ルアー1個の値段を1000円とすると、製作数50個を越えたところからコスト縮減効果を発揮する計算になる。

 しかし最初の2年間は、使用に耐え得るルアーを作ることがなかなかできず、100個作っても5個くらいしか使えない、といった具合であった。計算通りにはいかないのが人生である。

 現在は過去に作製した中で、バランスが良く自分のフィーリングに合ったものを数種類選び、少しずつバージョンアップさせながら、オリジナルルアーを使ったイトウ釣りを楽しんでいる。いくつかご紹介しよう。

「Fujiヤマメ8cm」(ミノータイプ)

 中小河川のイトウをターゲットとし、ミノータイプでは一番活躍してくれる。6月は上流から下流までどこにでもイトウがいて活性が高く、これ1本で数釣りができる。なお、同じタイプでフローテイング・サスペンド・シンキングなど状況に合わせて使い分けている。

 カラーリングを変えて、ヤマメ、ウグイ、ドジョウ、ヤツメ、ワカサギなど、いろいろなパターンを作製したが、現在はほとんどヤマメパターンしか使わない。スレた魚を釣るためにはカラーチェンジ、パターンチェンジが有効なことは理解しているが、私としては、見た目がいいもの、信じて使い続けられるもの、水中の動きが見やすいものが中心となり、いつも同じものを多用してしまう。それがヤマメパターンであり、実際良く釣れる。

「スピナベFujiSP」(スピナーベイト)

 これも実績抜群の、大物イトウ狙い専用ルアーである。昔、リッパフィッシュというルアーがあったのだが、その独特のフォルムに直感を得てデザインした。ブレードは真鍮板を叩いて作り、フックをオフセットのワームフックにすることで、様々なワームをトレーラーとして交換して楽しめる。ミノーなどにスレたときは特に有効である。市販のスピナーを使ってフックを交換すれば、ほぼ同じ仕様となるので是非試していただきたい。

イトウフィギュア&ストラップ

 ルアー作りの技術がある程度身に付いてきたと感じ始めたころ、イトウをかたどったブローチと携帯ストラップを作って自分で使っていたところ、釣友たちに「作ってほしい」とねだられ、数人にプレゼント。特にストラップは釣り人以外にもリクエストがあり、ビルダー冥利に尽きる思いだ。

 ただし、フィギュアやストラップの製作は、ルアーより遥かに手間がかかるため、こちらに時間を取られ過ぎて本来のルアー制作が満足にできないという欠点がある。誰かに頼まれると断れないどころか逆に張り切ってしまい、本来業務に影響をきたすところは昔から変わっていない、とわれながら思う。


イトウぬいぐるみ

イトウのぬいぐるみ
試作したぬいぐるみ。着色が大きな難関

 まさか自分がぬいぐるみを作ることになるとは想像もしていなかった。企画が生まれたのは2010年夏だったか。尻別川でイトウの自然繁殖が再発見され、倶知安町風土館のイトウ展示計画が立てられた時、大きさも重さも実物大で来館者が触れることができるイトウのぬいぐるみを作れないだろうかと、いつも一緒に尻別に向かう車中でHさん、Iさんに度々プレッシャーをかけられ続け、試作品に取りかかるハメに。50cm級のイトウは何とか形になったのだが、果たして1m以上の「尻別イトウ」が作れるのか??


イトウは人生の一部

 釣りから始まって保護活動にも携わり、イラストやフギュア制作などを通じて、私はますますイトウの魅力に引きずり込まれている。いろいろな角度からイトウを見つめ、毎日のようにイトウについて考えていると、イトウが自分の身内のように愛おしく思えてくる。

 私が釣りをしている道北河川では近年、1mを超えるイトウの釣果情報が多くなっているが、これは釣り人の大半がキャッチ&リリースをするようになった結果であると確信している。まさに、釣り人がイトウの生息環境を監視するとともに、イトウを護り育んできた成果なのである。自分がその釣り人の一人であることに誇りと生きがいを感じ、今後もイトウに関わって生涯を過ごしたいと思っている。

 尻別川でも、「オビラメの会」の保護活動により個体数を回復させ、かつて草島会長や吉岡事務局長が釣り上げたような大物イトウを私が釣り上げ、三十年来の目標を達成できる日が必ず来ると信じている。その時が来たら胸を張って、大物イトウ狙いのルアーを尻別川に遠投してみたいものである。