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date h4 2021/12/28

北海道知事政策室「協働型政策検討システム」テーマ募集への提案

豊かな自然生態系を象徴するイトウ個体群の尻別川流域における復元

 北海道知事政策室が事業テーマを募集した「協働型政策検討システム推進事業」(2004年度)に、オビラメの会はこんな提案文を送りました。

参考サイト 北海道知事政策室「協働型政策検討システム推進事業の概要


(1)提案するテーマ

 豊かな自然生態系を象徴するイトウ個体群の尻別川流域における復元事業

(2)提案の理由

 自然環境の豊かさは、北海道が日本国内はもとより世界に向かって誇れる素晴らしい共有財産です。しかし、いわゆる環境破壊も各地で目立ち、北海道の生物多様性を維持してゆくためには、積極的な施策が不可欠です。北海道はすでに「北海道野生動物保護管理指針」をはじめ、先進的なガイドラインを制定しており、今後はこれら指針を各地の環境保全にじょうずに適用していくことが望まれています。

 世界に誇れる本道の生物多様性を代表する種に、淡水魚イトウがいます。体長1メートル以上に達する日本最大のサケ科魚類で、日本では北海道にしか生息しません。大型の肉食魚類だけあって、餌となる生き物たちをはじめ、周囲の生態系が健康であって初めて生き延びていける魚ですが、逆に言うと、イトウが世代交代している事実は、その水域の生態系全体がきわめて健全であることをよく証明します。いわばイトウは、地域の生物多様性を測定するバロメーターなのです。このイトウを、北海道レッドリスト(2000年)は「絶滅危機種」に指定しましたが、これは、本道の水域生態系全体が脅かされていることを象徴していると言えるでしょう。

 さて、後志支庁管内を蛇行して流れる尻別川は、イトウの生息する南限といわれていますが、約10年にわたる現地調査の結果、繁殖環境はほぼ奪われ、このままでは絶滅寸前であることが分かってきました。地元・ニセコ町に事務局をおく市民グループ「尻別川の未来を考えるオビラメの会」(草島清作会長、会員約70人、URL http://homepage3.nifty.com/huchen/Obirame/index.html)は、そんな尻別川のイトウ(=オビラメ)を何とか復活させようと、尻別川産イトウを人工増殖し、科学的な手法に基づいた「再導入」によって復元することを目指しています。全国の市民や道立水産孵化場の協力を得て、苦労の末に2003年と2004年、ようやく人工孵化に成功しましたが、まず尻別川の現在の環境を改善しないと、人工孵化の魚を再導入(放流によって個体群の再生を促すこと)することはできません。尻別川のイトウ個体群を絶滅に追い込んでいる主要因は、繁殖地喪失などの環境悪化であり、その改善なしには再導入個体も決して自力では生きられないからです。

 川の自然環境を改善するには、川の中だけでなく、河畔林や堤防、農地など、周囲の土地利用形態をも見直す必要があり、地域の合意形成が欠かせません。

 さいわい尻別川では、川の自然を生かした観光業(釣りやラフティング)が非常に盛んで、川の環境復元は、こうした観光業にも大きなプラス効果が見込まれます。河川の管理については、これまでも縦割りの弊害が指摘されていますが、今後「道州制」の導入によって、改善の効果が劇的に現れる可能性も考えられます。この結果、もし尻別川の自然環境が復元され、イトウ個体群の復元が成功したら、「幻の魚イトウ」は、尻別川の生物多様性のシンボルとしてのみならず、地方分権のシンボル、環境立国・北海道のシンボルになるかも知れません。

 また、こうした過程すべてにおいて、地元や地元以外の学校などを通じて、少年少女たち若い人々が自然環境復元の活動について学ぶ機会や、自ら参加できる機会を提供することによって、いわゆる環境教育・体験的教育に大いに寄与することは間違いありません。ひいては、北海道の将来を担う人材の育成にもつながるでしょう。すでに「オビラメの会」では、地域や地域外の小学校、大学などの依頼を受けてイトウ保護に関する「出前授業」に協力して、児童・学生や教員の皆さんにたいへん好評を博しています。さらに、若い世代に限らず、このような環境復元事業への関わりを通した「環境教育」によって多くの道民の意識改革が進めば、現代社会がもたらしているいたずらな自然環境への負荷を抑制する効果も期待できるでしょう。

 繰り返しになりますが、イトウ個体群の復元には地域の合意と、市民・行政の連携が不可欠であり、まさに「協働型政策」と呼ぶにふさわしいテーマであると考えます。

(2004年6月14日 提出)