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date h4 2021/12/28

コラム「いま、開発行政に求めたいこと」

川村洋司

 河川環境対策の目的は人々の憩いの場所を作ったり、釣り場を整備することではありません。結果としてそうなることが多いかもしれませんが。まず重要なのは河川が本来持っているはずの多様性を取り戻すことでしょう。そのために人間が出来ることは何か。イトウに配慮した河川を新たに創るのではなく、かつてのようなすばらしい尻別川を取り戻すのです。私たちが欲しいのはイトウの釣れる川ではなく、尻別川のイトウが安心して住めるかつてのような河川です。具体的に2点、提言しましょう。


 1点目。イトウの資源を維持するためには長い生活史全般にわたってその生息環境が維持されていなければなりません。まさにゆりかごから墓場までです。例えば釧路湿原では、まだ比較的広大な湿原という成魚にとっての生息環境がありながら、再生産河川がほとんど無くなってしまったために、極めて貧弱な資源状態になっており、蛇行区間の復元工事をしても、イトウが増えないのは間違いないでしょう。
 尻別川にとって成魚の生息空間を増やすことは勿論必要ですが、それ以上に再生産河川(産卵場所と稚魚の生息場所)を沢山確保することが重要です。

 2点目。イトウには母川回帰性があると考えられることから、尻別川のイトウ個体群は独自の集団を形成している可能性が強い。生態的にも尻別川の河川環境に合った独自の生態を有していると考えられ、遺伝的多様性の保全の面からもイトウ資源の復元は尻別川のオリジナル個体群で行うべきである。現在存在している個体群がある以上、それを保全する方策を考えるべきで、むやみに他の個体群を持ち込み遺伝的組成の攪乱をするべきではない。最悪の場合、交雑により遺伝的な不適応を起こして、絶滅を早めることにもなりかねない。尻別川をイトウの管理釣り場にする必要は全くない。

 今開発に期待したいのは、支流も含めて下流から上流までイトウが自由に往来できるようにすること。そのために堰堤等での通路の確保と流量の確保が必要。3面護岸を撤去し、河岸に植生を回復させて、河岸の多様性を回復させるとともに、土砂の流入を少なくさせること。多自然型川造りと称してやたらと河川公園化しないこと。

 ここは一つオビラメの会がしゃしゃり出て、計画段階から関与するのが良いでしょう。資源の復元については当会で考えているので勝手なことをしないでくれぐらいのことは言う権利があると思います。

(かわむら・ひろし/オビラメの会会員、北海道立水産孵化場)


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