2010年10月8日

札幌市長 上田文雄様

豊平川での生態系への配慮に欠けたイトウ移植放流を止めてください

尻別川の未来を考えるオビラメの会
会長 草島清作
事務局長 吉岡俊彦
北海道虻田郡ニセコ町富士見65 電話 0136-44-2472
http://obirame.fan.coocan.jp/

拝啓 時下ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。私たち「尻別川の未来を考えるオビラメの会」は、絶滅危機種イトウ(サケ科)の生息南限とされる尻別川(後志地方)で、イトウ保護活動を進めている市民グループです。絶滅寸前と評価されるイトウ尻別川個体群の人工孵化魚を、札幌市豊平川さけ科学館で飼育・育成いただくなど、ひごろより当会の活動にご理解とご協力を賜り、まことにありがとうございます。
 さて近年、札幌市を流れる豊平川(石狩川水系)において、イトウの移植放流が大々的に実施されていることを報道などで知りました。しかし一般に生物の移植は、在来生物との競合や、在来近縁種との交雑などを引き起こしがちで、かえって在来の生物群の絶滅に手を貸してしまいかねません。
 絶滅危機種の「復活」を望まれる有志市民のみなさまの熱意に敬意を表しつつ、反面、生態系への配慮に欠けた移植放流が地域の生物多様性をかえって損なってしまう危険性を看過できず、以下の要望をお伝えいたします。

1 豊平川での生態系への配慮に欠けたイトウ移植放流を止めてください

 魚類の安易な移植放流は、自然保護の狙いに反して、かえって地域の生物多様性を損なう結果を招きがちです。こうした失敗を繰り返さないよう、日本魚類学会は「生物多様性の保全をめざした魚類の放流ガイドライン」(2005年)を策定し、「安易な放流の実施は避けるべきであり(略)さまざまな活動主体(地域住民・市民、行政、研究者、博物館・水族館等)が社会的コンセンサスの下で協働することが望ましい」と戒めています。しかし、今般の豊平川でのイトウ移植放流は、この指針に照らして、将来展望に欠け計画性に乏しい、といわざるを得ません。
 上記指針に従えば、まず豊平川を含む石狩川流域全体の生態系の状況を綿密に調査し、その結果に基づいて保全や復元のための方策を慎重に講じたうえで、イトウ移植放流の是非を判定し、説明を尽くして社会の合意形成を図る必要がありますが、今般の豊平川でのイトウ移植放流では、このような準備はおこなわれていないようです。
 また、今般の豊平川へのイトウ移植放流について、仮に貴札幌市が十分に実態を検討されないまま追認なされば、かつて「カムバック・サーモン運動」が札幌発で流行したのと同様、尻別川を含む全道の河川で場当たり的なイトウ移植放流を誘発し、各地で重大な環境破壊(在来イトウ個体群の絶滅など)を引き起こしかねません。
 生物多様性基本法(2008年)第5条は、「地方公共団体は、基本原則にのっとり、生物の多様性の保全及び持続可能な利用に関し、国の施策に準じた施策及びその他のその地方公共団体の区域の自然的社会的条件に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有する」と明記しています。手遅れとなる前に、移植放流をいったん停止して手法を見直すなどの道を選ぶよう、ぜひ指導力をご発揮ください。

2 生態系への配慮に欠けたイトウ移植放流を慎むよう、生物多様性の観点からの啓発をお願いします

 北海道生物多様性保全計画(2010年)は、市町村に対して「自然体験や環境学習の機会づくりを行うなど、地域住民に対して生物多様性保全の必要性の理解を促す取組」(同計画32ページ)を求めています。地域の自然に関心深い札幌市民のみなさまに、どうぞ生物多様性の核心をお伝えいただき、準備不足のままのイトウ移植放流に頼らず、より望ましい計画・手法による生物多様性保全(復元)を目指されるよう、ぜひ指導力をご発揮ください。
 北海道の生物多様性のシンボルであるイトウは、全道各地の生息地で置かれている状況が大きく異なり、絶滅を防ぎ、群れの健康状態を維持するためには、それぞれ適切な保護管理対策が求められています。私たち「オビラメの会」は1996年以降、尻別川流域において、多くの専門研究者や地域行政機関などのご支援を得ながら、上記指針などに準拠して、注意深くイトウ復元に向けた取り組みを進めています。それが散発的な移植放流によって達成できるほど簡単なものではないということを、私たちの長い経験からご指摘申し上げるものです。繰り返しになりますが、せっかくの市民有志の善意がかえって生物多様性を損なうようなことのないよう、くれぐれも慎重な姿勢で望まれることを、お願い申し上げます。

 以上です。どうぞよろしくご勘案くださいませ。
 今後ますますのご発展をお祈りしています。

敬具

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