イトウ復活大会議2006パネルディスカッション「遡上イトウを迎えるためにいま、できること」

2006/3/4、2017/10/16

イトウ復活大会議

パネリスト(写真右から)/野田知佑、草島清作、江戸謙顕、大光明宏武、久田博康の各氏。司会・平田剛士。撮影・鈴木芳房

行政としてもイトウ保護支援を

司会 まずは会場からご意見をお聞かせください。

フロア 北海道後志支庁水産課の斉藤幸雄です。私たちは昨年度から支庁独自に「尻別川の魚を守る」呼びかけ事業を進めていて、釣り人にも協力をお願いしながら調査をおこなう過程で、「オビラメの会」さんともつながりができました。イトウを増やそうというオビラメの会さんの目標は、尻別川の在来種を守っていくというわれわれと完全につながりますので、行政としても支援していこうと支庁長からも指示を受けて連携を進めているところです。ちょうどおととい、「羊蹄山麓景観づくり指針」への地元案が発表されましたが、水辺の景観づくりが盛り込まれています。こうした動きも尻別川の魚にとっては追い風だと思います。オビラメの会さんからご提案いただいた倶登山川の落差工の再改修などについても、行政機関同士を仲立ちする役割を私たちが果たしていきたいと思っています。

司会 力強いお言葉でしたね。河川環境を保全したり復元したりするには、支流一本だけでなく、流域全体をみていく必要があると思いますが……。

地域とのつながりの中で進めることが大切

フロア 北海道工業大学の柳井清二です。流域全体の保全管理を進めようとする場合、地域の自主的な動きをどう支援するかが非常に重要です。行政主導でやった場合、いったん始めても、予算が単年度や3年程度で打ち切られると、金の切れ目が縁の切れ目で、後は空中分解してしまうケースが少なくないようです。ですからオビラメの会のように、オカネはないかもしれませんけれど手弁当で長く地道に、地域のつながりの中でやっていくことは、非常に大事だと思います。

近親交配の心配は?

フロア 江戸さんに質問ですが、尻別のイトウ個体群は絶滅に瀕して個体数もわずかだということで、近親交配の心配はないんでしょうか。

江戸 近交弱勢といって、有害遺伝子が一気に発現したりするとどーんと減っちゃう危険はあります。ただ、種によって程度はかなり異なるらしく、魚類はかなり強いのではないか、とも言われています。特にイトウは、支流ごとに繁殖を繰り返してきて、そこへごくたまに迷入してくる個体の遺伝子を入れるだけで、長く世代交代してきているわけで、もともと強いのではないか、とも考えられるのです。尻別川の魚が少ないからといって別の集団を持ち込むことは慎重に考えなければいけないことで、そんなことをすると、生き残りたちをかえって圧迫してしまうことにもなりかねません。オビラメの会の再導入に関しては、いまは雌1個体からの稚魚しか放流していないわけですが、未成熟の個体があと数匹いますので、これらの魚を利用して何とか復元できるのではないかと考えています。

イトウを飼うことの大変さは

司会 その魚の飼育も並の苦労ではないわけですけれど、ご紹介いただけますか?

フロア オビラメの会事務局長の吉岡俊彦です。2003年、04年と続けて稚魚がとれ、いま32~33センチに成長した魚と、12センチのとを飼育しています。成長して親になるまで6~7年続けていかないとならないんですが、本当にたいへんなことなんです。イタチとかサギのような外敵にやられないようにするのにFRPの水槽を作って覆いをかぶせたり、人工飼料をやるので汚れがすごくて頻繁に掃除しなくてはならないですし、実はうちの会社の社員2人がつきっきりで世話していますが、いつ辞めますって出て行かれるんじゃないかと気が気じゃありません。もちろんイトウは自然に回帰してくるのが一番で、それを目指していますが、この30年計画は杖をつきながらやり続けなければならない仕事だと思っています。みなさんの応援を是非よろしくお願いします。

司会 オビラメの会は会員のみなさんの会費や、支援くださる企業・財団さんなどに支えられて活動を続けています。きょうこの会場でも入会を受け付けていますので、ぜひどうぞご協力ください。さあ、若い研究者のみなさんも一言お願いします。

「こんなに大きくなったよ」って子どもたちに伝えたい

久田 尻別川でイトウを復活させるために、僕たちは川の景観保全が大事だと思って、小学生たちが川で遊べる環境を復元するにはどうすればいいのかとか、そんなことを考えて研究を進めています。僕たちもイトウを復活させるんだという強い気持ちでやっていきますので、どうぞ長い目で見てもらって、みなさんのご協力をいただきたいと思います。

大光明 去年、イトウの稚魚を飼育して放流してくれた小学生たちに、「もうこんなに大きく成長しているんだよ」って見てもらいたかったので、きょう都合で子どもたちが来られなかったのは残念ですが、そういう環境教育を通して、子どものうちから環境問題に関心を持ってもらうことは大事だと思うんです。自分自身、釣りから始めてイトウの研究をやりたいと思ったんですが、子どもの頃から自然が好きという人をたくさん育成できたら、これからの日本の自然保護ももっと発展するんじゃないでしょうか。

司会 野田さん、若い彼らにぜひエールを。

野田 イトウを育てる前に、「川ガキ」を育てるというのはどうですか。吉野川で毎年30人ずつ、同じメンバーで一年通して「川の学校」というのをやってます。目的は子どもを川にたたき込むコト(笑)。川に入ったことのない子どもでも、魚を1匹捕まえると人生変わっちゃう。成績は落ちますが(笑)。川を見る目つきが変わる。尻別川でも、夏にそんな企画をやるのはおもしろいと思いますね。経費に関しては、吉野川では「吉野川基金」というのをやっています。クレジットカードを作っちゃうんです。毎月のケータイ料金をそれで払ってもらうようにするとかして、利用料の0.5%が基金に入ってくる仕組みです。これで、年に100万円単位で入ってきます。一つのアイディアですが、やってみる価値はありますよ。

司会 どうもありがとうございました。