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date h4 2021/12/28
流域自治体共同条例案を目指して/尻別川における具体的ルールのご提案
以下の提案文書は、「尻別川の未来を考える オビラメの会」が、NPO法人「しりべつリバーネット」事務局の募集に応じて2001年10月17日に作成・提出したものです。
この募集事業に関しては、「しりべつリバーネット」のサイトをご参照ください。
●提案の趣旨
尻別川は、野生イトウ(サケ科イトウ属、学名 Hucho perryi)が分布する南限の川です。流域内外の尻別川ファンが集うNPO法人「しりべつリバーネット」がその基本理念「しりべつ川の約束」の冒頭で、「この川の主人は、ありのままの自然である。その番人はイトウであり、伝承者は小魚、小鳥、樹木、岩砂であることを認識する」と謳うように、生物多様性豊かな尻別川のシンボルとして、イトウほどふさわしい生き物は見当たりません。生態学的にも、水域内の最上位捕食者であるイトウの生息は、尻別川における生態系が健全であることの証しであり、尻別川生態系の健康度を示す指標としての存在価値もまた、非常に高いと言えるでしょう。
しかし、私たち「尻別川の未来を考える オビラメの会」が専門研究者の協力を得ておこなってきたこれまでの生息状況調査では、尻別川の全域において、イトウが自力で繁殖できる環境はほぼ完全に失われていることが判明し、また釣りによる成魚の捕獲も近年はまれであることなどから、尻別川のイトウ個体群は絶滅寸前である、と判断せざるを得ない状況です。
私たち「オビラメの会」は、イトウを絶滅の淵に追いつめている理由として、過度の捕獲圧、産卵環境の破壊、河川横断構造物による通行路の分断、稚魚・幼魚・若魚・親魚それぞれのステージでの棲み場所の喪失、水質汚染、移入種の放流、各種レクリエーション/レジャー活動による脅かし、などの項目を重要視しています。絶滅を回避するためには、真っ先にこれらの絶滅要因を取り除く必要があり、それぞれの項目に適切な対策を講じなければなりません。さらに人為的なサポート活動として、自然環境の復元対策とともに、尻別川の生息する野生イトウ個体群の遺伝的多様性を脅かさないことを前提に、人工的に孵化させた種苗の適切な方法による個体数回復を図る必要があると判断しています。
「オビラメの会」が2001年に立てた「オビラメ復活30年計画」は、このような各種対策をプログラム化しようとするものです(別添資料参照)。一部はすでに事業化していますが、すべてを実現し目標を果たすためには、広く流域内外の住民や行政機関のご理解とご協力がどうしても欠かせません。
先進的な保護管理技術では、対象種に対し、科学的モニタリングによって各種社会活動の影響を評価しつつ、生息環境保全と各種社会活動の間の、ちょうどよいバランス点を見いだし、結果として両者ともに「共存」することを可能にします。これまでの各種社会活動が尻別川のイトウをここまで追いつめてしまったことは事実であり、これから絶滅回避措置をとれば、社会活動規模のいくばくかの縮小は避けられません。しかし、もし保護管理技術を応用した総合的な対策が進められれば、尻別川で社会活動に携わる全員が「自分たちが尻別川のイトウを守っている」という特別な誇りを共有できるでしょう。
某業者による尻別川でのジェットボート営業運航計画に対して賛否両論戦わされている最近の尻別川ですが、この議論を通して見えてきたのは、尻別川や流域の自然環境に対する際の規範が準備されてないということです。既存法令では尻別川の自然環境を守れないばかりか、さまざまな意見の対立を円満に解消することもできないことが明らかになりました。
同じような問題は全国各地の河川にも当てはまるのでしょうが、さいわい尻別川にはイトウというかけがえのないシンボルがあり、イトウを中心に人の輪を作ることは決して難しくないはずです。「オビラメの会」は、イトウを絶滅の淵からすくい上げ、かつ人びとが笑顔で集える尻別川を実現するために、以下のような新しい流域自治体共同条例を提案します。