尻別川イトウ個体群復元に向けてのご提案

2006/11/6、2017/10/11

 2006年11月6日に始まった「尻別川圏域河川整備計画検討委員会」(事務局/北海道小樽土木現業所)に、委員として参画しているオビラメの会は、委員会に対して、以下の提案をしています。


2006年11月6日

尻別川整備計画検討委員会各位

尻別川イトウ個体群復元に向けてのご提案

尻別川の未来を考えるオビラメの会
会長 草島清作
事務局長 吉岡俊彦 ニセコ町富士見65 0136-44-2472
http://homepage3.nifty.com/huchen/Obirame/index.html

 当会は、絶滅危惧種イトウ(サケ科)の尻別川個体群の復元を目指して、流域内外のサポーターはもとより、地元各自治体、北海道立水産孵化場、北海道後志支庁、北海道工業大学、酪農学園大学、札幌市豊平川さけ科学館、千歳サケのふるさと館など関係諸機関、民間コンサルタント、メディア各社、さらに地球環境基金、パタゴニア日本支社など助成団体・企業の手厚い支援を受けながら活動を続けています。このたびの新しい「尻別川圏域河川整備計画」策定にあたって、当会より以下のようなご提案を申し上げます。尻別川の豊かな自然生態系を象徴するイトウ個体群を保全・復元するために、ぜひ実現に向けてご検討いただきますようお願いします。

(1)尻別川イトウ個体群の保全・復元を整備計画に盛り込むことをご提案します

 サケ科の淡水魚イトウ(Hucho perryi)は、国際自然保護連合『レッドリスト』(2006)で最上位のCR、環境庁(現環境省)『汽水・淡水魚類レッドリスト』(1999)で絶滅危惧IB、北海道『北海道レッドデータブック』(2001)で絶滅危機種とされ、国際的にも最高度に保護されるべき種の一つです。尻別川はその生息南限であり、最優先で手だてを講じる必要があると考えられます。また水域生態系内で最上位捕食者に位置づけられるイトウは「アンブレラ種」と呼ばれ、イトウの保全・復元を試みることは、そのまま水域生態系全体の保全・復元に直結します。

 改正河川法では、河川管理の目的として、従来の治水・利水に加えて、同じレベルで「河川環境(水質、景観、生態系等)の整備と保全」(建設省河川局「「河川法の一部を改正する法律」について」、1997年)が義務づけられました。イトウの生息南限=尻別川では、イトウ個体群の保全・復元に触れずしてこの新しい目的の達成は困難です。また国際的に保全の気運が高まっている本種個体群の保全・復元こそ、改正河川法によって初めて実現できる画期的な取り組みです。さらに言えば、効果的な環境復元事業を進めるには、多様な側面からのアプローチと継続的な取り組みが不可欠であり、従来の公共事業以上に地域経済などへ活性効果も期待できます。新しい整備計画に、イトウ個体群の保全・復元を推進することをぜひ盛り込むことを提案します。

(2)組織横断的な事業展開を義務づけることをご提案します

 当会は「オビラメ復活30年計画」(2001年策定、添付資料1)に基づき、2004年から、尻別川で捕獲したイトウ親魚より得た人工孵化稚魚を尻別川水系倶登山川支流域(倶知安町)に選んだモデル河川に放流し、現在は、当会モニタリングチームが科学的な手法でその追跡調査を継続しながら最適な再導入の方法を見つけ出そうとしているところです。またイトウ生息に適した河川環境の保全・復元のためにGISによる評価手法の開発を進めている北海道工業大学とともに、倶登山川をはじめとする尻別川流域の環境情報の収集・蓄積を続けています。さらに2006年度からは、後志支庁水産課および農村振興課との全面的な協力体制のもと、倶登山川流域に残るイトウ遡上不可能なダム(落差工)に新たに魚道を設置する計画を進めています(添付資料2)。

 こうした組織横断的な取り組みは従来は非常に困難でしたが、官・民あるいは官・官同士の「協働」による流域管理への関心が高まるなか、双方の努力によって少しずつ「壁」が外されてきました。その生活史において流域全体を利用するイトウ個体群の保全・復元は、こうした組織横断的かつ総合的な河川管理なしには実現できませんが、倶登山川での当会の取り組みはそのモデルケースとして、行政側からも高く評価されています。しかしいっぽう、せっかくこのように保全・復元作業が進む倶登山川流域でさえ、機関同士の連携を欠いたために十分な検討もなく自然破壊的な工事が実施されてしまうこともまだ起きています。いっそう広範な機関同士の連携を図るため、新しい整備計画では、組織横断的な河川管理の実施を謳うことを提案します。

以上

添付資料1 「南限のイトウ保護にご協力ください」(リーフレット)

添付資料2 「オビラメの会ニューズレター」26号