オビラメペディア
2001, 2022/01/09
イトウの名前
- 学名 Parahucho perryi
- 日本語名 イトウ(サケ目サケ科パラフッコ属)
- アイヌ語名 チライ、トシㇼ、オペライペ、ヤヤッテチェㇷ゚、シアッチェㇷ゚
- 地方名 オビラメ、オヘライベ、イト、イド、チライ
- 英語名 Japanese huchen, Sakhalin taimen
イトウのからだ
日本産淡水魚類では最も大きい。論文に残る最大の個体は1937年に十勝川下流部で捕獲された約2.1m。近年は体長120cmを越える個体が見つかるのはまれ。尾叉長90cmの個体で体重は約10kg。他のサケ科魚類に比べると体高が低く、スマートなシルエット。潜水艦を連想させるずんぐりした個体もいる。背は緑がかった褐色、体側は銀色、腹は白い。腹部を除く全身に多数の黒い斑点が散っている。雄は成熟すると繁殖期に鮮やかな婚姻色を発する。雌の婚姻色は控えめ。大きな口に強力な顎。多数の鋭い歯を隠し持ち、うっかり指先をかまれると血だらけになる。(この項、オビラメの会発行のポケットブック『ぼくらイトウのレスキュー隊』から)
分布と生態
北海道、サハリン、沿海州、南千島に分布する。かつて青森県小川原湖にも生息していたが、絶滅した。北海道では、根釧原野、猿払原野、サロベツ原野などの湿原地帯の中を蛇行しながら緩やかに流れる河川の中・下流域や、湖沼に生息している。現在の分布の南限は、道南の尻別川といわれているが、1988年に朱太川でも捕獲されたという。
イトウ属はユーラシア大陸に広く分布し、イトウのほかにシベリアの河川やアムール川に生息する「タイメン」Hucho hucho taimen、ドナウ川水系の「フーヘン」H. hucho、揚子江上流の「虎魚」H. bleekeri、鴨緑江、長津江、赴戦江などに生息する「コウライイトウ」H. ishikawaiが知られている。
イトウ属の魚は一般に海に下りないが、イトウは珍しく降海する性質を示す。北海道で降海するものは一部で、汽水域やごく沿岸域で生活する。河川で生活するイトウは、夏期には中・上流域で過ごし、晩秋に降河し下流部で越冬するものが多いという。河川の氷が割れるころから活発に活動を始め、5月ころまでは河川の屈曲部の大きな淵に生息し、倒木などの陰に潜む。水温が10度Cに上がると、浅所や流れの速い場所にも姿を現す。
イトウは、春に産卵し、産卵期は3月~5月である。春に産卵するイトウの卵は、前年の秋には卵黄の蓄積をほぼ完了し、成熟直前の状態となり、水温の上昇する春に成熟して産卵されると考えられている。初めて成熟するまでに長期間を要し、雌は満6~7歳、全長60センチあまりで初回産卵を迎える。雄は雌よりも1~2年早く、満4~6歳、全長40センチ程度で成熟する。産卵後も死ぬことなく、一生の間に何回も産卵を繰り返す。抱卵数は体長75センチで約5000粒、95センチで1万粒あまりである。
産卵は、河川の上流域で行われる。産卵床は淵から瀬へ移行する場所、すなわち瀬頭に作られる。産卵床の大きさは、ほかのサケ科魚類の産卵床に比べ大きく、長径2~3メートルに及ぶ。産卵はすべて一対のペアで行われ、複数の雄が同時に放精することはない。雌は5~6回に分けて卵を産むが、この間雌雄とも相手をしばしば変える。ほとんどの場合、大きな雌と小さな雄とのペアであるが、雌をめぐって雄同士の闘争が起き、大きい方の雄が勝つ。
年齢はうろこによって調べられるが、高齢魚の年齢査定は難しい。生後1年目の春に体長7センチ前後になる。その後、2年目で13.4センチ、3年目で19.0センチ、4年目で24.5センチ、5年目で30センチ、6年目で35.4センチになる。生後2年目あるいは3年目に成長は飛躍的に増大する。寿命は非常に長く、ゆうに15~20年は生きる。
卵は鮮やかな橙赤色で、卵径は6ミリ前後、水温8度Cで受精後21日目に発眼し、37~40日でふ化する。ふ化直後の仔魚は全長15.1~16.6ミリで、大きな卵黄を持ち、すでに両あごに歯を持っている。全長24.0~25.6ミリになると体側にパーマークが現れ、全長38.5ミリになると両眼の間が平坦になる。全長86.0ミリになると、体型がほぼ整い、背側部に小黒点が散在するようになる。パーマークは全長が約15センチになると不明瞭となる。稚魚期から「なわばり」を持つ習性がある。
全長10センチまでは主に水生昆虫の幼虫を食べるが、大きくなるにしたがって魚食性が強くなり、大型の個体はカエル、ヘビ、ネズミなども捕食する。
(この項、長澤和也・鳥澤雅編、北海道立水産試験場研究員著『漁業生物図鑑 北のさかなたち』<1991年、北日本海洋センター>42-44pより、著作権者の許可を受けて抜粋。ただし単位などの表記法を一部書き換えています。)