オビラメの会の尻別イトウ再導入
2001-、2024/10/11
尻別川は絶滅危惧種イトウ(サケ科)の生息南限として知られますが、近年の自然破壊などの影響で繁殖環境が急速に失われ、個体群は絶滅寸前の状態です。このような個体群の復元を目指して、当会は専門研究者らの協力を得ながら2001年、「オビラメ復活30年計画」という基本方針を立てました。尻別川産イトウ親魚を飼育し、人工授精によって得たイトウ稚魚を再び川に戻すことで自然繁殖復活の呼び水にしよう、というプランです。
当会は国際自然保護連合の「再導入ガイドライン」(1995)ならびに「再導入と保全移植の指針」(2013)、また日本魚類学会の「生物多様性の保全をめざした魚類の放流ガイドライン」(2005)に準拠しつつ、2004年、最初の再導入実験河川として尻別川支流の倶登山川を選択し、2004年秋、2005年春、2007年秋、2008年春、2011年春の4度にわたり、計約5800匹の尻別川産イトウ稚魚を、標識(アブラビレの切除)のうえ、放流しました。
また、この放流実験の経過を観察するために、放流魚の定期的な追跡調査を継続しています。放流時に体長わずか数センチだった稚魚が自然河川内でたくましく成長し、2008年冬の調査では、体長40センチほどになった姿が確認されています。また2009年6月には体長約50センチ、2012年3月には体長約80センチの標識つきイトウが尻別川で釣り上げられ、放流魚たちが元気に成長していることが分かりました。
こうした放流実験と平行して、当会は尻別川におけるイトウ絶滅要因の排除に向けた活動も進めています。2006年、イトウ稚魚放流河川=倶登山川で、イトウをはじめとする水生生物の自由な往来を妨げていると考えられる落差工(ダム)の改修を北海道に要望し、2011年3月までに、合わせて5基のダムに魚道が新設されました。
さらに2012年5月20日と27日、北海道後志管内の尻別川産の野生イトウを父母とする人工孵化イトウ(雌2尾、雄3尾=2003年と04年人工授精、満9歳と満8歳)を用い、尻別川産イトウ個体群の遺伝情報を引き継ぐ人工孵化2世魚から初めて、計3200粒の人工採卵と授精に成功しました。また、それに先だつ5月11日、当会がイトウ再導入実験を続けてきた尻別川支流・倶登山川流域(後志管内倶知安町)で、2004年秋と05年春に試験放流した人工孵化イトウ(計3500尾、標識付き)のうち、少なくとも1ペアが、親魚となって自力で放流河川に回帰し、正常な産卵行動を行なったことを初めて確認しました。
絶滅に瀕しているイトウ地域個体群の復元に成功した前例は、世界中を見渡してもありません。このたびの人工孵化2世魚からの初の人工採卵と授精、および人工孵化放流魚の母川回帰と繁殖行動の初確認によって、世界で初めて、イトウ地域個体群復元の手法を確立することができました。