人工孵化させたイトウ稚魚の放流活動
2022/01/06, 2024/10/11
「再導入」法でめざす尻別川イトウ個体群の復元
オビラメの会は1997年から、尻別川で釣り上げたイトウたちの飼育を開始しました。2003年、その巨体ぶりから「デカ」と名づけたメスからの採卵と人工授精に初めて成功。その後、25年あまりを経て、4世代目までの継代飼育を軌道に乗せ、現在は、ニセコ町と協働で建設した「有島ポンド」で、尻別川オリジナル遺伝子を引き継ぐイトウ親魚たち約40尾を飼育し、尻別川に再導入するストック(「デカ」から数えて4世代眼にあたる稚魚)を生産しています。2003年の採卵初成功から、今年(2024年)5月までの22シーズンで、合わせて11万6974粒の人工採卵と人工授精に成功しました。
そうして孵化させた稚魚を尻別川に戻す「再導入」を始めたのは、2004年9月からです。最初に選んだリリースサイトは、尻別川中流域、倶登山川水系(倶知安町)の小さな川でした。
絶滅危機種であれ普通種であれ、魚の放流はさまざまなリスクをともないます。国際自然保護連合のガイドラインなどに従い、すべての放流魚に目印をつけ、追跡調査を続けながら、少しずつ実験を進めました。
いうまでもなく尻別川のイトウがなぜ減ってしまったのか、その原因を取り除かなくては、いくら放流を続けても成功は望めません。リリースサイトの倶登山川には、イトウの自由な往来を妨げていると思しき落差工が5つありました。後志総合振興局や倶知安町と協働して、すべての落差工に魚道をつけました。
そのかいあって、初放流から8年後の2012年、大きく育った放流イトウが倶登山川に帰ってきて産卵行動を取る様子が初めて確認されました。こうして倶登山川ではイトウの自然繁殖が再開し、いまでは、そこで新たに生まれた第2世代(「デカ」から数えると第3世代)のイトウたちが自然繁殖している姿が確認されています。尻別イトウ=オビラメの自然繁殖地が再生したのです。
この経験を生かしながら、2015年からニセコ町、2020年以降は京極町、喜茂別町に再導入エリアを拡大しました。順調にいけば、2020年代後半には、巨大なイトウたちがこれらの川でも産卵行動をみせてくれるはずです。再導入実験に着手した2004年9月から現在(2024年10月)までのオビラメの会によるイトウ稚魚放流数は、累計2万尾を突破しました。
「オビラメ復活30年計画」の最終年まで、残り5年あまりです。それまでに、野生のイトウたちが自力で世代交代できるようにして、流域の人びとがまた安心してイトウ釣りを楽しめるような尻別川にする――それがオビラメの会のめざすゴールです。
オビラメの会の尻別川産イトウ人工孵化稚魚放流実績(2024年10月2日更新)
放流日 | 放流場所 | 放流魚の親 | 人工授精日 | 放流数 | 齢 | 標識 |
---|---|---|---|---|---|---|
2004/09/25 | 倶知安町A川、倶知安町B川 | デカ、チビ | 2004/05/07 | 1789 | 20 | ADF |
2005/06/25 | 倶知安町A川 | 74 | 20 | |||
100 | 20 | ADF, LPF | ||||
500 | 20 | |||||
倶知安町B川 | 1000 | 20 | ADF, RPF | |||
2005/10/12 | 倶知安町C川 | 476 | 20 | RPF | ||
2007/09/24 | 倶知安町A川 | ノリカ、チビ | 2007/05/20 | 1000 | 17 | ADF, LPF |
2008/06/21 | 40 | 17 | ADF | |||
1223 | 17 | |||||
2011/07/02 | ササキサン、チビ | 2010/05/16 | 223 | 14 | ADF, RPF | |
2014/05/23 | デカ・チビのこども | 2012/05/20 | 66 | 12 | ADF, LPF | |
2015/10/23 | デカ・チビ・ノリカのこども | 2015/05/20 | 760 | 9 | ADF | |
2015/11/07 | ニセコ町D川 | 700 | 9 | |||
2018/10/14 | 2018/05/12 | 520 | 6 | |||
倶知安町A川 | 520 | 6 | ||||
2020/09/26 | 喜茂別町F川 | 2020/5/6-11 | 1814 | 3 | ||
2021/09/262 | 喜茂別町F川 | 2021/5/8-13 | 1650 | 3 | ||
喜茂別町G川 | 1650 | 3 | ||||
2021/09/28 | 京極町E川 | 1100 | 3 | |||
2022/09/28 | 喜茂別町G川 | 2022/5/7-12 | 845 | 2 | ||
2022/09/30 | 京極町E川 | 800 | 2 | |||
2023/09/26 | 2023/5/6-13 | 800 | 1 | |||
2023/09/27 | 喜茂別町G川 | 500 | 1 | |||
2024/09/25 | 2024/5/6-11 | 500 | 0 | |||
2024/09/26 | 京極町E川 | 500 | 0 | |||
2024/09/27 | 喜茂別町G川 | 225 | 0 | |||
京極町E川 | 225 | 0 | ||||
2024/09/28 | 喜茂別町F川 | 500 | 0 | |||
合計 | 20100 |
※齢は2024年10月2日現在。標識はカットしたヒレの部位。記号はRPF(右腹びれ)、LPF(左腹びれ)、ADF(あぶらびれ)。
放流リポートなど
イトウ保護連絡協議会2008リレーフォーラムChapter2「尻別川のイトウ保護政策を考える」&エクスカーション「イトウ稚魚放流会」のご案内